目次
1.著者情報と本の概要
今回紹介する「おとなが育つ条件」の著者は「柏木恵子」さんです。
著者は、1932年の生まれで、2013年現在では東京女子大学名誉教授を務めています。
専攻は「発達心理学」「家族心理学」です。
本の概要としては、著者の専攻からも分かるように「発達心理学」です。
発達心理学というと、子どもの成長を調べる学問と思われがちですが、著者によるとおとなも発達しているのだとか。
さて、それでは子どもがおとなに育つ条件とは、何なのでしょうか?
2-1.おとなが育つ条件
この本の中で著者は、おとなが育つ条件を次のように定義しています。
「おとな」であることの条件はいうまでもなく自立です。(中略)幼弱病老者への配慮と援助ーーケアの心と力を備えていることは、おとなの必須の条件です。ケアすることは即おとなが育つ条件です。
「おとなが育つ条件」 p.97 l.15-p.98 l.1
おとながおとなとして認められる条件が「自立」であり、そのようなおとなに育つための要件が「ケア」であると挙げられています。
確かに経済的であれ心理的であれ、親に依存した態度は、自立しておらずおとなとは言えない印象を持ちますね。
弱い者への配慮と援助をする優しい心の持ち主がおとなであるという気持ちもわかります。
それでは、この本でこの「自立」と「ケア」がどのように定義されているかを見てみましょう。
自立とは孤立ではなく、心身の安定と円滑な社会生活は他者との関係によって支えられ、また彩られるものです。
「おとなが育つ条件」p.57 ll.9-10
この定義から読み取れることは、自立とは、親離れのことであり、子自らが作り出した他者との関係に依存関係を移動することであると読めます。
自らが作り出した社会関係の中で支えられ、彩られた生活を自立したおとなは、送る事ができます。
それでは、その「自立」の要件である「ケア」とはどのようなものでしょうか。
(ケアとは)相手の心身の安寧のために心と体を使って働くこと。
「おとなが育つ条件」 p.90 l.12
この本の中で出て来るケアの例としては、既婚女性が配偶者に対して行う家事などが挙げられています。
勿論それ以外にも親に対する介護なども含まれます。
誰かの為に動くこと、との理解で良いかと思います。
つまりこの本が言いたいことは、「おとなであるための条件は、他者との関係によって心身の安定と円滑な社会生活を送る事であり、そのためには相手の心身の安寧のために心と体を使って働くことである」と読めます。
2-2.自己制御
この本の中で約6回出て来る事で重要と思われる単語は「自己制御」です。
この本の最後も「自己制御」という単語で締めくくられています。
それでは、その自己制御の重要性を表す部分を抜き取ってみます。
この文章は、発達が何によってなされるのかについて書かれた文章です。
男性であれ女性であれ生物学的な性以上に、自分はどう生きるか、自分の何が大事かといったアイデンティティを基盤として、自らの発達を自ら方向づけ特徴づけていく自己制御によるところ大であることを示唆しています。
「おとなが育つ条件」p.182 l.15- p.183 l.1
この文章の中で、自己制御は「自らの発達を自ら方向づけ特徴づけていく」ことだと書かれています。
自分の成長する方向性を社会の親や教師の言う事を聴くだけでなく自分で定めてそれに向かって進んで行く姿が映し出されています。
ついつい親や社会の期待に応える為に大学や就職先選びを失敗することは、よくあることですね。
そもそも大学に行き、良い会社に就職するというイメージそのものが、社会による刷り込みです。
自らの進むべき道を考える時期に来ているのかもしれませんね。
2-3.アイデンティティ
さて、前項の「自己制御」の中で、自己制御の基盤として「アイデンティティ」が挙げられていました。
アイデンティティとは、「自分はどう生きるか、自分の何が大事か」と言った思考だと書かれていましたね。
アイデンティティというと、青年心理学をイメージしがちですが、おとなの寿命が延びた事でおとなでも重要な課題となって来ました。
皆さんは「自分がどう生きるか、自分の何が大事か」という問いにさらりと答えられますか?
私にはなかなか難しいです。
それでは、アイデンティティを構築するためには、どうしたらよいのでしょうか。
以下に引用します。
歴史と社会の変化を見通し、その上でどのような生き方が自分を活かし自分も満足できるかを検討し選択することです。
「おとなが育つ条件」p.209 l.11-12
人間は、過去・現在・未来を見通すことができる動物です。
その力を活かして社会の変化を見通し、その上で生き方を選択することが重要だと書かれています。
「おとなが育つ条件」の中では、社会の変化に見事適応した人々として「イクメン」の方々が挙げられています。
今でこそ「イクメン」そのものは、珍しくないかもしれませんが、その先駆者たちは、育児に夫が関わるべきでないという社会の圧力に対抗したのです。
そして現在では「イクメン」の方々が求められる社会に変化しました。
現在の社会は、変化が激しくてモデルが、存在しないという特徴を持っています。
自ら考えて社会の圧力に対抗していく力が求められています。
3.まとめ
さて、ここまでの主張をまとめます。
「おとなが育つ条件」とは、「歴史と社会の変化を見通し、生き方を自ら決定することを基盤として、自らの発達を自ら方向づけ、相手の心身の安寧のために心と体を使って働き、他者との関係によって心身の安定と円滑な社会生活を手に入れること」と言えます。
今回の記事で紹介した部分以外にも、日本人の幸福度や結婚に対する面白い分析が沢山載っていました。
興味がある方は、是非読んでみて下さいね。