目次
1.著者情報と本の概要
「犯罪心理学 犯罪の原因をどこに求めるのか」の著者は「大渕憲一」さんです。
この本は、2006年に出版されました。
著者は、その時点で「東北大学大学院文学研究科教授」の職に就いていました。
また、主な著書として「日本人の公正観」「攻撃と暴力」「満たされない自己愛」があります。
私が意外だった事は、著者が文学科の教授であったことです。
犯罪心理学の本なのでてっきり法学部系の方なのかと思い込んでいました。
さて、そのような著者に書かれた「犯罪心理学」ですが、犯罪が起こる原因を環境と個人の要因から探求していく内容となっています。
各章毎に環境か、或いは個人要因かと話が進んで行きます。
結論としては、どちらもあるので相互作用による、というところの様子でした。
2-1.犯罪の社会的要因
3章の「犯罪の社会的要因」が、主に環境要因を扱った章となっています。
犯罪の社会的要因研究は、3つの立場に分けられます。
「緊張要因」「下位文化理論」「統制要因」の3つです。
この本では、このうちの「緊張理論」と「下位文化理論」の統合を試みています。
「緊張理論」で注目される社会的要因は、以下のように書かれています。
緊張理論では、社会生活が順調にいっているときには犯罪は起こらず、失業、差別など、なんらかのストレスがかかると個人は犯罪に向かうと仮定する。
「犯罪心理学」p.44 ll.7-10
どうしても困った時に、しかたなく犯罪を犯してしまう、ということですね。
「下位文化理論」での注目される社会的要因は、以下のように記述されています。
下位文化理論では、個人を犯罪に誘導するような文化(価値・信念・スキルなど)が存在し、個人がそれに接触して影響を受けたときに、犯罪が起こると主張する。
「犯罪心理学」p.44 ll.10-12
誰でも犯罪に手を染める可能性があり、環境(家族・仲間・地域)の影響を良く受けるということですね。
この2つの理論を統合させたものとして、p.74に図3・5として整理されています。
図をそのまま載せることは、できませんので内容だけ抜粋して文章で記述します。
まず、背景要因があります。
そこにストレス要因が加わり、この段階で犯罪行為に及ぶ者もいます。
さらに犯罪文化との接触が起こることによって、犯罪文化への同化が強まって行きます。
そして最終的に犯罪行為が、行われるのです。
背景要因は、主に環境要因です。
人は、誰でも環境によって犯罪行為に手を出してしまうことがあるのですね。
より詳しい説明については「犯罪心理学」を読んでみて下さいね。
2-2.犯罪の個人要因
4章の「犯罪の個人要因」が、主に個人要因を扱った章となっています。
個人要因は「生物学的要因」と「パーソナリティ要因」の二つに分けられます。
「生物学的要因」の「大脳機能の障害」である「微細脳損傷」の主張が、私に衝撃を与えました。
遺伝的あるいは周生期の負因によって、一部の子どもたちは出生以前にさまざまの脳損傷を被る。
「犯罪心理学」p.103 ll.24-25
この脳損傷が原因で障碍者として生まれて来る子供たちがいます。
しかし障碍者と扱われるほど重篤な傷ではなく、かといって傷がない子どもとも違う子ども、それが犯罪者になるという主張なのです。
勿論、脳損傷が、そのまま犯罪者に繋がるわけではありません。
脳損傷があることにより、他の子どもとうまくいかなかったり、社会から排斥されたりすることによって、犯罪者になっていくのです。
もう一つの個人要因である「パーソナリティ要因」についてもみてみましょう。
パーソナリティ要因に対する研究の成果として「犯罪者のパーソナリティ像」が挙げられています。
それは「偏った欲望、関心、価値」「衝動性」「接近型の情緒不安定」「非協調性」「社会的認知の歪み」「知的能力の偏り」であるとされています。
「社会的認知の歪み」に関しては、私自身にもその傾向があるので、興味深かったです。
特に理由もないのに「人から嫌われている」などと感じることが「社会的認知の歪み」に相当します。
今はそのように思うことはありませんが、以前はその傾向が強くありました。
3.まとめ
この社会的要因と個人要因の二つが同時に満たされることにより、犯罪が起こるということが、著者の主張でした。
より詳しくそのメカニズムを知りたい方、犯罪者のパターンを知りたい方は、ぜひ「犯罪心理学」を読んでみて下さいね!