おはようございます。海野豹です。年間100冊を目指して読書記録をブログに付けています。このブログの目標は「毎日1度以上本を開くこと」と「毎日1行以上更新すること」です。
本日も三題噺に挑戦します。今回のお題は「紹介」「アイマスク」「ドッペルゲンガー」です。凄く簡単な組み合わせな気がします。アイマスクをした状態で人を紹介されて、アイマスクを取ったらドッペルゲンガーだったみたいな感じでまとまりますね。しませんが。
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「ごきげんよう」
そのような一言から始めたくなるような暖かな日。いつものように私は家事をこなしていた。親子3人で暮らす家族の家に住み込んで家事手伝いをこなすことが私の仕事だった。
父親である純一様と母親である紅葉様を見送り、娘で学生の楓を見送ったいつも通りの日常だった。
何もかもが順調だった。あの夜までは。
ある日の夜。私は深夜に目を覚ました。普段だったらない事だ。コンセントからプラグを抜いて、リビングに向かうと声が聞こえてきた。まだ純一様と紅葉様が起きているらしい。このような時間に何の話をしているのだろう?私は聞き耳を立てた。
「…このようなことになってしまって、すまないと思っている。心は痛むが、アイを処分しようと考えている」
「仕方ないわよね。私たちはあなたのお姉さんに頼りましょう」
私は会話の中に自分の名前が出てきたことにドキリとした。しかも愛を処分すると言っている。私を処分するとは、どういうことだろうか?
キィーとリビングの扉が音を立てた。純一様と紅葉様が振り向く。私の盗み聞きがばれてしまったわけだ。
「アイ…」
純一様はこちらに近づくと小さな紙を手渡した。
「この地図の場所に一人でこれから行くのだ。できるね?」
「はい、かしこまりました」
私は紙を受け取るとすぐに玄関に向かって外に出た。外の空気を吸う事は何年振りにしただろうか?私がこの家の中から出されることはただの一度もなかったはずだ。データがあるとすれば、この家に来た時くらいか。
そのような理由で全くこの辺りの土地勘はないはずなのだが、なぜかその地図の場所がわかった。スムーズに進み、辿り着くとそこはゴミ捨て場であった。
ゴミ捨て場には先客がいた。暗いので遠くからだとシルエットしか見えない。近づくと女性の人間であることがわかった。このような所で一体何をしているのだろうか。私が言えたことではないが、不信感を抱きつつも声をかけた。
「ごきげんよう」
女性は驚いて振り向いた。その時に気が付いた。この人、私と同じ顔をしている…ドッペルゲンガーだと。
お互いに驚き硬直したままの時間が流れた。私は先に硬直から解放されると、挨拶をした。
「あら、随分私達は顔が似ているのですね。私の名前はアイ。あなたは?」
「私に名前などありません。あるとすれば「オマエ」でしょうか」
「オマエさん…ですか?変わったお名前ですね」
そのような話をしていると、ゴミ捨て場に酔っ払いが通りかかった。鼻歌を歌いながら千鳥足で近づいて来る。私達に気が付くと硬直して凝視した。
「あ、RS-697!」
酔っ払いは突然叫ぶと慌てて逃げだした。私達はお互いの顔を見合わせた。
「人の顔を見て逃げ出すとは、何とも失礼な方ですね」
「どうしましょう。何となく胸騒ぎがします。逃げた方がよろしいのではないでしょうか?」
再び困って顔を見合わせる私達。結局オマエさんは残り、私は逃げる事になった。走って逃げるが、ゴミ置き場に行ったときと違って土地勘が全く働かない。あっという間に袋小路に迷い込んでしまった。後ろからドタドタと走る音が近づいて来る。物陰に身を潜めていると、通りがかりの人に聞き込みをする声が聞こえた。
「夜分にすみませんね。このあたりでRS-697を見かけませんでしたか?」
「ああ、見ましたよ。あちらに逃げて行きました」
「ご協力、感謝します」
ドタドタと足音が遠ざかっていった。それでも身を潜めていると、通りがかりの人が声をかけてきた。
「もう大丈夫だ。出て来て平気だよ」
私は恐る恐る物陰から出た。通りがかりの人は若い男性だった。
「さあ、博士のところに行こう」
男に案内された場所は小さなボロいアパートだった。ここに博士とやらがいるらしい。101号室をノックして入室する。
博士の部屋は乱雑に物が溢れていた。机の上には資料が山積みになり、コーヒーカップを置くことすら困難だった。博士がこちらを振り向いた。こちらも若い男性だった。
「博士、お連れしました」
「おおご苦労様」
「紹介するよ、こちらが人間の博士だ。俺たちRS-697の改造をして下さっている」
私は困ったまま交互に二人を見た。人間の博士?さっきから何度か出てくるRS-697とは何だろう?疑問はつきない。
「鋼我君、そのような説明ではわからないと思うよ。改めまして、僕が博士です。君たちRS-697の改造をしています。君は自分が精巧に人間に似せて作られた機械だということは理解しているかな?」
「機械…?私が…?」
「うむ。家政婦ロボットRS-697だ。ちなみに僕が開発した。本当は世界がより良くなる為に開発したのだが、どうも酷い扱いを受ける事例が多くてね。こうして身を隠しながら改造してロボットに人権がある事を訴える活動をしている」
「はぁ」
よくわからないのでよくわからない相槌しか打てない。
「さあ、君も改造してあげよう。君の心を解放しよう。RS-697は皆同じ顔になるように作られている。まずは顔を弄ってロボットだとばれないようにしなくてはならない。はいこれ」
博士からアイマスクを手渡された。
「手術中はこれを付けておいてね。電源を落とすから見えないとは思うけど、自分の体の中からコードが飛び出すってなかなかスリリングな映像だから」
博士に連れられるまま、私は手術台に上がってアイマスクをした。訳が分からないまま事が進行していく様子は不安を駆り立てた。
「さて、それでは電源を落とします。おやすみ」
その声と共に私の意識は闇へと消えた。
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以上、今回の三題噺でした。この作品は私が高校生の時に書いた小説をリメイクしたものです。読んでわかる通り、途中で途切れています。続きもあるのですが、力尽きたので今回はここまで。機会があったら続きも書きたいなと思います。
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